いつも来局している関節リウマチの患者さんが急に1週間分のMTXとエンブレルが少なく処方されていました。理由を聞くと「なんとなく」ワクチンの接種で怖くて休薬してしまったとのことでした。
新型コロナウイルスワクチンを予定しています。関節リウマチの治療中なんだけど薬は継続していて大丈夫なのかしら?
まずワクチンの接種に関しては、欧州リウマチ学会の見解では「すべての人にとってCOVID-19ワクチン接種は賢い選択である」としています。また「リウマチ性疾患患者がワクチン接種を差し控える理由がみあたらない」と踏み込んでもいます。米国リウマチ学会もワクチン接種を強く推奨しています。今服薬している薬の継続の可否に関しては日本リウマチ財団の情報ページを参照しておきましょう
国内での主な考え方
日本リウマチ学会も 明確なガイドラインを出してはおらず、各先生方の個人の考えでリウマチ薬の制限について決めています。
2021年6月現在はワクチン接種に関して特に国内で定められたものはない。主治医の判断によって柔軟に対応する必要がある。
アメリカリウマチ学会COVID19 ワクチン委員会の見解
薬剤、治療法 | ワクチン接種時の服用・投与 | 専門委員会の合意度 |
プレドニン20㎎/日未満相当のステロイド | そのまま服用 | 高度 |
プレドニン20㎎/日以上相当のステロイド | そのまま服用 | 中等度 |
ヒドロキシクロロキン(プラケニル) | そのまま服用 | 中等度 |
タクロリムス(プログラフ)、シクロスポリン(ネオーラル) | そのまま服用 | 中等度 |
アザチオプリン(イムラン) | そのまま服用 | 中等度 |
SASP(アザルフィジン) | そのまま服用 | 中等度 |
ミコフェノレイト(セルセプト) | ワクチン接種後1週間は服用しない | 中等度 |
TNF阻害薬(レミケード、エンブレル、シンポニー、シムジア、ヒュミラ) | 投与期間を変えずにそのまま投与 | 中等度 |
IL6R抗体(アクテムラ、ケブザラ) | 投与期間を変えずにそのまま投与 | 中等度 |
MTX(リウマトレックス) | 中等度 | |
Jak阻害薬(ゼルヤンツ、オルミエント、リンヴォック) | ワクチン接種後1週間は服用しない | 中等度 |
アバタセプト(オレンシア)皮下注 | 1回目のワクチン前後各1週間は投与しない。2回目のワクチンには関係なく注射して良い | 中等度 |
アバタセプト(オレンシア)点滴静注 | 1回目のワクチン接種4週間前から注射しない。1回目のワクチン接種後1週間は注射しない。2回目のワクチンには関係なく注射して良い | 中等度 |
エンドキサンパルス療法 | ワクチン接種後1週間は行わない | 中等度 |
リツキサン療法 | リツキサン療法の4週間以前にワクチン接種をする | 中等度 |
鎮痛解熱薬(カロナール、イブプロフェン、ロキソニン、ボルタレンなど) | ワクチン接種の24時間前からは服用しない (ワクチンで発熱などの症状がでたときには使用できる) | 中等度 |
薬剤師の対応を柔軟に行う
薬剤師は主治医の決めたことに対して不安を取り除く必要性があります。自身の考えではなく、医師の考えをサポートするための回答を用意しておきましょう。今回は私の患者さんのリウマチ薬がMTXとエンブレルの場合での対応を考えようと思います。
調製なしで服薬継続パターン
病勢が十分にコントロールされていない場合には、MTXを一旦中止することで再燃しやすくなる可能性を考慮し、一旦中止しないことを医師から提案される可能性があります。エンブレルに関しては、アメリカのガイドラインでも服薬継続が推奨されています。
服薬中止を指示されるパターン
ガイドラインでは病勢が安定している患者さんには、COVID-19ワクチンの各接種後1週間はメトトレキサートの投与を控えることを推奨しています。またアメリカリウマチ学会はワクチン接種後1週間は服用しなとされています。
風邪などの感染症があるときには服薬をスキップすることはあるので、特にスキップを1週間行ったとしても病態は安定しているの可能性は大きくあると思います。
また疾患活動性が上がった場合にも、用量は異なりますが、エンブレルを減量、中止して、状態が悪化してしまった人に、ふたたびエンブレル50㎎を投与したらどうなるか予測した試験があります。DOSERA試験の結果をご紹介しますと、その結果は、エンブレル50㎎再開後20週(約5か月)までに、全員がもとの状態に戻ったというものでした。つまり、もし1週間の休薬で痛みが出てしまっても再開すれば効果は期待できます。
どちらの回答も検討して患者の不安を解消できるものになっているか確かめましょう。