くすりの勉強

末期癌在宅でのこと

末期癌在宅を開始してから2年になりますが、まだまだ知らないことや勉強しないといけないことだらけです。正直なところ収益性が低いこと、24時間体制での疲労感など、トータルで見るとプラスになっているかわかりません。しかし、考えさせられることが多いのも確かです。

私自身の考えを変えたというと大袈裟かもしれませんが、印象に残っている患者さんについて記事にしました。

この抗癌剤のおかげで治っているかもしれない

患者さんとのこと

女性の患者さんでした。47歳だったでしょうか。こどもは2人いて、1人は独立していて、もう1人が高校生でした。余命に関して本人は正しく理解していたかわかりません。

ある日、訪問をすると唐突に「この抗癌剤を飲むと癌が小さくなっている感覚がある」と話をされました。実際には抗癌剤は出ていませんし、そのような説明はもちろんしていません。

「痛みも治まっている」

「癌が治ったのかもしれない」

「痛くないから薬も飲まないでいようと思う」

服薬を勝手に止めてしまう可能性があるので、痛みが治まっているのは薬のおかげかもしれないので服用を続けましょうと説得をしました。本人は納得してはいないようでしたが、服用を続けることを了承してくれました。その1週間後にはオピオイドの皮下注射が始まり、5日後には亡くなりました。

亡くなる前にはずっと痛みを訴えていました。

私は状態を理解していただろうか

薬剤師として間違ったことをしているわけではないですが、患者さんの想いを汲んでいたのかというと今も疑問が残ります。限られた訪問回数の中で汲み取り切れていないと感じることがあります。

「痛みが治まっている」に対して「飲んだ方が良い」という短絡的な返答は本当にターミナルケアとして問題なかったのでしょうか。もしかすると、服薬することで制限される活動から解放されて、何かしたいことがあったのではないかと考えてしまします。

ターミナルケアに関わる上で

薬の配達だけしていたわけではありません。薬剤師として痛みや吐き気、便通などチェックをして適切な服薬指導を行っていたと思います。その中で苦痛を和らげる提案を医師にもしていました。

ですが、ターミナルケアにとってそれは最低限のことです。本来私がやらなければならないことは、その人が今やりたいことをサポートすることでした。そのための薬だということを忘れていたと思います。

患者さんのその価値観に踏み込むようなコミュニケーションはできていませんでした。

来年までに復職しないといけません

患者さんとのこと

34歳の男性でした。子どもはまだ幼く、在宅の際にもお父さんがいることでとても嬉しそうでした。この方も余命は知らされていませんでした。

在宅の2日目にこの方と話をしていた際にこんなことを言われました

「妻も働き始めるので、私も来年までには復職をしないといけないんです」

この言葉が非常に重く響きました。この方は余命を知らされていないだけでなく、末期の癌であることを知らされていません。当たり前の明日が来ると信じているのです。

痛みは激しくなり、オピオイドの皮下注、それでも収まらずという状況でした。そして、この方も介入から2週間で亡くなりました。

現場では何ができるのか

薬剤師の立場からできることは限られているので、何もしないということも正解だと思います。残薬の回収から医療関係者の中で最後に家族と会うのは薬剤師になることも多くあります。家族へのサポートの必要性なども含めて最後に判断できるのは薬剤師なのかもしれません。

患者だけでなく家族も含めたケアが必要になる以上、薬剤師もどのようなサポートがあるのか周辺情報も整理しておくことが必要になると思います。何かしなければならないというわけではなく、現場に応じた柔軟な対応が患者だけでなく家族に対しても求められます。

まとめ

普段は当たり前の服薬指導も相手の状況によってうまくできないこともあります。私自身は地域全体で在宅を推進することで、在宅が終わった後も相談先として薬局が存在できることが理想だと思っています。

末期癌の在宅は学ぶことも感じることも多くあります。時には患者の状況に自身の心が引っ張られてしまって少し落ち込むこともあります。なんとなく薬剤師の価値を一つ見つけられそうな気がするのも確かです。

人員が不足している地域もあるので、興味のある薬剤師の方は末期癌の在宅をしているDrを見つけて連携を取ってみてください。