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高齢者にPPIが処方されすぎていないか

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この記事の背景

イレッサの承認資料を見ていた時に無酸症の記述がありました。平成14年ではありますが、20年未満くらいで人間の体が大きく変化するとも考えにくいと思い、そこから考えて提案まで繋げてみました。

減量提案が全てではありませんが、必要な薬剤とそうではない薬剤の選択は薬剤師として重要だと思います。論文から臨床に繋げて提案を行う練習として取り上げました。

低酸症・無酸症

低酸症は、胃液中の酸が少ない状態。無酸症は全くない状態のことです。

原因

胃がんや慢性胃炎、貧血等を原因とすることが多く、胃粘膜が萎縮して、酸の分泌が低下します。

症状

酸が少ないため、消化作用に支障が起き、以下の症状となります。

・食欲不振
・胃もたれ
・下痢

問題提起

承認資料の内容

本罪はpHが6.8以上の溶液中ではほとんど溶出しないことが示されており、実際にラニチジンとの併用による薬物動態への影響を検討した臨床試験において、胃内pHの上昇に起因すると思われるCmax及びAUCの低下が確認されている。日本人高齢者においては無酸症が多いことが報告されており、これらの患者においては本剤の血中濃度が低下し作用が減弱する恐れがあることが考えられる。以下略…

論文の内容

Biol Pharm Bull. 2001 Mar;24(3):313-5. doi: 10.1248/bpb.24.313.の論文からわかること

無酸症の被験者の割合は年齢とともに増加

1995- 1999年の50歳の無酸症患者の割合は約40%であり、1984年のそれ(60%)よりも低かった。

50歳という年齢で考えたとしても、40%が無酸症の可能性があり、さらに年齢が高くなると無酸症の割合が高くなるので、少なくとも40%の患者は無酸症であると考えられます。

臨床現場と比較してみる

私が担当している患者の中で高齢者に絞るために80名の特別養護老人ホームの施設の処方内容をチェックしてみると、PPIの処方患者が58名、H₂RAの処方患者が4名となっており、制酸剤の処方が78%となっていました。つまり、論文中の40%と比較すると、この中の半数が実は胃酸の過多が原因でないが制酸剤が処方されている方ではないかと推測しています。

提案内容

自覚症状のチェックをしてもらう

逆流性食道炎

胸が痛い、重い、苦しいと感じる

酸っぱいものや、苦いものが込み上げてくる

のどの違和感

げっぷがよく出る

お腹に膨満感がある

胃潰瘍

食事中から食後に起こる心窩部痛

十二指腸潰瘍

空腹時に起こる心窩部痛

胃の不快感、無症状であったとき

患者と相談してPPIの一時的な休薬を提案を行っています。休薬後に逆流感の悪化があればそのまま継続を行うように患者には相談しつつ、休薬を促します。

後押しする論文

あえて無益の可能性があるPPIを投与する必要がないという理由の後押しとしては以前から言われていた論文なども効果的にできると思われます。それがPPIと認知症の相関関係を示す論文です。この論文が100%正しいかと言われるとそうではないと思いますが、休薬の方向性を示すことができると思います。

論文要旨

以前から薬理疫学研究では、プロトンポンプ阻害剤(PPI)が認知症のリスクを大幅に増加させることを示しています。認知機能障害としてコリン作動性機能障害を指摘しており、PPIの長期使用がどのように認知症の発生率を増加させるかのメカニズムを説明しています

まとめ

この記事はPPIを悪として削除しようと考えて書いたものではありません。ただ明らかに高齢者にPPIが使用されすぎているような感覚があり、効果が不十分であれば薬剤の中止を提案することは薬剤師の仕事として重要だと思いますので、その方向性に合う形で提案するまでの道のりを検討することができればと思います。

決められたとおりのルートではなく、自身で考えて方向性を示すことが重要だと思います。その考えのきっかけの一助になればと思います。その結果として服薬調整支援料など患者のメリットになる保険算定ができれば良いのではないでしょうか。