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薬剤師なら知っているアルツハイマー型認知症

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アルツハイマー型認知症の新薬(aducanumab)をFDAが承認しました。アルツハイマー型認知症については研究段階であることも多く、この新薬に多くの期待を寄せるという声や、治療の根幹を変えるようなものではないという声があるようです。なぜこのような声があるのか、それは認知症の新薬が「仮説」に基づいて開発されているからです。

薬理作用のスペシャリストである薬剤師の皆さまはアルツハイマー型認知症の成り立ちについて一度整理してみてください。

認知症にまつわる代表的な仮説

コリン仮説

どのような仮説か

アルツハイマー型認知症の患者の脳を調べた結果、アセチルコリン作動性神経が障害を受けていることを発見した。これは神経伝達物質の一種であるアセチルコリンが減少していることを意味しているので、記憶を改善するには脳内のアセチルコリンを増加すればよいのではないかという説

この仮説から開発された薬

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

donepezil

rivastigmine

galanthamine

グルタミン酸仮説

どのような仮説か

グルタミン酸の受容体であるNMDAが関与しているという説。

NMDA 受容体は、大脳皮質や海馬に高密度に存在し、記憶に関係する長期増強や発達可塑性において中心的な役割を担っており、アルツハイマー型認知症患者の記憶障害にはこのグルタミン酸ニューロンや NMDA 受容体の減少が関与していると考えられている。

アルツハイマー型認知症の脳における神経細胞脱落には、グルタミン酸の神経興奮毒性が関与しているのではないかと考えられており,アミロイドβが NMDA 受容体のグルタミン酸認識部位に結合し、NMDA 受容体を介した Ca²⁺流入が NO 産生と細胞毒性を誘発している可能性が指摘されている。

そのためにNMDA受容体を阻害することにより神経細胞脱落を抑制する可能性があるとしている。

この仮説から開発された薬

NMDA受容体拮抗薬

memantine

アミロイド仮説

どのような仮説か

タウ蛋白と共にAβがその前駆体蛋白質であるamyloid precursor protein(アミロイド前駆体蛋白)から切り出され、異常凝集し、神経細胞を傷害する過程が重要な役割を果たすと考えられている仮説

この仮説から開発された薬

βセクレターゼ阻害薬(BACE阻害薬)

elenbecestat(第3相試験において安全性レビューでベネフィットがリスクを上回ることはないと判断され2019年に開発中止)

γセクレターゼ阻害薬

semagacestat(第3相試験において認知機能の低下や皮膚がん発症リスクの亢進などがみとめられたため 2010 年に開発が中止)

抗アミロイドβ抗体

solanezumab(2018年に認知機能の低下の有意な抑制は示されなかったとする臨床試験の結果が公表された)

aducanumab(2021年にFDAが承認)

オリゴマー仮説

どのような仮説か

アミロイドβが凝集していく過程で、無構造のモノマーからβ-シートへの構造変換を起こし、続いて重合核が形成され、可溶性の低分子オリゴマーや高分子オリゴマーであるプロトフィブリル、さらには成熟線維が形成される。従来、脳アミロイドとして蓄積する成熟線維が神経毒性を発揮すると考えられていたが、近年、オリゴマーやプロトフィブリルに毒性があるのではないかという仮説が出てきている。

老人斑の減少と認知機能の改善が相関しないこと、あるいは認知症発症時点ではアミロイドβ蓄積がほぼプラトーに達していることに対する一つの考え方として、最終段階のアミロイドβ成熟線維(老人斑)よりも、早期のオリゴマーないし少し凝集が進んだ高分子オリゴマーの段階がアルツハイマー型認知症メカニズムにおいてより重要である可能性がある。

この仮説から開発された薬

lecanemab:BAN2401(2021年4月のプレスリリースより、lecanemabによる効果を評価したPOC試験である201試験の結果として、脳内Aβ量の減少と臨床症状の進行抑制が示されたことが述べられています。本論文では、事前に設定した解析法に基づき、lecanemabの最高用量は、複数の臨床症状を評価するエンドポイントならびにバイオマーカー指標において一貫した進行抑制を示したと結論付けています。現在、この結果の確認を目的とした臨床第III相試験が進行中です。)

現在はターゲットをオリゴマーにした研究も多くあります。自然由来成分などから抽出されるなど様々な角度から探索されています。

【参考】

2019年6月27日
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター (NCNP)

今回、研究グループは、神経細胞モデルを用いた研究によって、植物成分からAβオリゴマーの毒性を抑制する物質「チロソール」を同定しました。さらに、この物質をアルツハイマーモデルマウスに長期経口投与することにより、シナプス障害や酸化ストレス病態が改善するといった神経保護的効果が現れるとともに、認知障害が回復することを示しました。すなわち、チロソールはAβオリゴマーの持つ神経毒性を低減することによって、アルツハイマー病の病態を改善する効果を有する治療薬候補物質と考えられます。この研究成果は、アルツハイマー病の治療薬開発において、新たな方向性を開くという点で、大きな意義を持つものといえます。

まとめ

これから世界的に認知症の人数が増えると考えられています。それに応じて、薬の開発もさらに活発化してくると思われます。そのときの最新トレンドを掴んで、認知症の発症メカニズムなどの理解に遅れを取らないようにしていきましょう。

まさかと思いますが、2021年でコリン仮説だけしか知らないというのは既に少し遅れ始めているかもしれません…

チャンピオン

この記事を書きながら思い出しました。

メマンチンが発売されたときに、ある神経内科の先生と認知症について話をしていたら「この薬は思い入れがあるんだよ。なんたって私が院生のときに研究していたテーマがNMDA受容体だからね」と言われました。先生の年齢が約60歳だと仮定して、30年以上前に研究していたものがやっと薬になるのだと驚いた記憶があります。

薬剤師のうちにいくつの新薬と巡り合えるかなぁ。