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無知な私・倫理観の高い医師

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癌専門MRとして働いていたころの話です。

そのころは遺伝子治療やヒトゲノム解析という情報が大きく報道されていて、「病気に罹る前から遺伝子の診断で予後のリスクがわかる時代が来る」と言われていました。

特に癌の領域ではRAS遺伝子変異について臨床上でも新しく取り入れられるなどしていたように記憶しています。

癌専門の医師とのアポイントの際に何気なく発した言葉でした。

早くゲノム解析ができて、自分が癌になるかわかるといいですね

これがこの話の発端となりました。私が無知だったと言わざるを得ない発言です。

難しい顔をした医師は私にこう言いました。

癌を発症することがわかる遺伝子の一部はもうありますよ。
本当に遺伝子検査したい?

その医師はある大腸癌の事例を取って私に話をしてくれました。

FAPとは

日本語の病名としては家族性大腸腺腫症です。

FAPは APCという遺伝子に変化が生じることが原因であり、この変化は親から子どもへ50%の確率で遺伝します。現在では、患者さんの血縁者に大腸内視鏡検査や遺伝子検査を行うことで、大腸がんが発症する前にFAPの診断が可能になりました。FAPの患者さん(あるいはご両親のどちらかがFAPと診断されている方)では10~12歳からの大腸癌検診が、AFAPの場合には18~20歳からの大腸がん検診を行うか相談することになります。

医師が言いたいことは

もしあなたの親がFAPだったときに、10歳から検診に行かされます。10歳で物事を理解することは難しいので、苦しい検査に対してイヤな気持ちが募るかもしれません。10代後半くらいで「50%の可能性で若くして癌になります」と言われ、その大きな十字架を背負い続けます。そして大人になったときに「これはあなたの父親が癌の遺伝子を持っていたからです」と知らされます。その遺伝子のせいで進学、就職、結婚などのライフイベントに何かしらの障壁が生まれているかもしれません。自身の精神状態や取り巻く家族の関係が変わってしまうかもしれません。

遺伝子検査ではわかることがメリットである一方で、わかってしまうことがあるデメリットもあります。きっと今までの疾患も遺伝子が作用していたものもあるかもしれませんが、それがわからないから耐えられた人もいるはずです。

そして医師からの再度求められました。
「遺伝子検査しますか?」

言葉に詰まってしまいました。

無知な私は「わかってしまうことがあるデメリット」について理解をしていませんでした。

明確な答えが出ない私に対して、最後に医師は言いました。

遺伝子検査は必要ですよ

発症メカニズムから予後まで考えても遺伝子検査というものは必要です。医師は目の前にいる患者と並行して将来に向けた研究も行っています。将来的に遺伝子が解析されたときに、因子を持っている人が絶望しないように今できることをやっておかなければならないと思っています。診断だけでは不十分、治療だけでも手探りになってしまう。これからは遺伝子情報などから、早期の診断になるマーカーと治療効果の予測できるマーカーのバランスを考えていかないといけないですね。

まとめ

朧げな記憶ながらふと文字に起こしたいと思い記事にしました。

今回の記事にしたいという考えからFAPについて少し調べてみると「早期発見と治療法の確立により、現在ではFAPの患者さんの平均寿命は日本人の平均寿命とほぼ同じになっています」とがん研有明病院のHPに書いてありました。

私に話をしてくれた時点で治療法が確立していたものなのか、その後に確立したものなのかはわかりません。しかし、着実にその医師が教えてくれたように臨床に研究が還ってくることで、最新の遺伝子検査がメリットとして得られているのだと実感しました。

それにしても医師って本当にカッコイイですよね。惚れてまうやろ。