くすりの勉強

緊急避妊薬のOTC化 是か非か

緊急避妊薬のOTC化についての話題は2019年から定期的に出てきます。今の情報の流れがどのようになっているのかを一度しっかりとまとめて、薬剤師がそれぞれで是なのか非なのか意見を持つことは重要だと考えています。そのうえで今後の議論に耳を傾けてみてください。

緊急避妊薬とは

一般名

レボノルゲストレル

作用

緊急避妊とは、望まない妊娠を避けるため、性交後に緊急におこなう措置のことです。たとえば、コンドームなど避妊具の装着不備や避妊薬の飲み忘れ、あるいはそのような避妊方法をはじめからとらなかった場合などが想定されます。

このお薬は、そのようなときに用いる緊急避妊薬です。おもな作用は、排卵を止めることです。排卵しなければ、受精の機会がなくなり、妊娠しないですむわけです。また、仮に、排卵・受精したとしても、子宮内膜の増殖がおさえられ、受精卵が着床しにくくなります。性交後72時間以内に服用することで、そのような避妊効果を発揮します。

【参考】

グッドマン・ギルマン薬理書(第11版)によれば、緊急避妊薬ピルの作用機序を「複数の機序がこれらの薬物の効力に寄与すると考えられるが、それらの正確な寄与については不明である。いくつかの研究では、排卵が抑制されるかあるいは遅延することが示されているが、関与すると考えられる他の機序には以下のものがある。すなわち、着床に対する子宮内膜の受容性の変化、妊娠を維持する黄体機能の妨害、精子の進入を減少させる頸管粘液の産生、精子・卵子や受精卵の卵管輸送の変化、あるいは受精への作用である。しかし、緊急避妊は着床が成立した後の妊娠を中断しない。」としている。

また、WHOによれば、レボノルゲストレルによる緊急避妊の作用機序を「レボノルゲストレル緊急避妊薬は排卵を抑制する。排卵後に投与した場合は、子宮内膜や黄体ホルモンレベルに検知可能な効果は認められない。レボノルゲストレル緊急避妊薬は着床成立後は有効性を認めず、妊娠を中断しない。」としている。

臨床試験

63人の女性が、性交後に、この薬を飲みました。そのうち妊娠したのは1人だけでした。月経周期日ごとの妊娠確率を考慮した妊娠阻止率は81%です。また、海外の臨床試験では、1198人のうち16人が妊娠(妊娠率1.34%)、妊娠阻止率は84%でした。避妊できる可能性が高いことがわかりましたが、100%阻止できるわけではありません。

副作用

最も多いのは、不正出血です。吐き気や頭痛、けん怠感などもよくみられます。これらはホルモン環境が一時的に変化するためと考えられます。

賛成意見

  • 東京オリンピックを機に、多くの観光客が来日した際に、緊急避妊薬を受診でしか購入できないという事実を知ることになれば、我が国における医療の在り方について、諸外国から疑問を呈されるのではないか。
  • 避妊薬にいつでもアクセスできることは女性の権利である。
  • 本邦における人工中絶の件数は多く、これらの負担を少しでも減らすために必要ではないか。
  • 産婦人科医の労働環境を改善するためにも市販化を望む。
  • 未成年者を含む若い女性にとっては、産婦人科の来院のハードルが高い。
  • 2016年の最新データでは、緊急避妊薬の女性の認知度は50%を超えている。

上記のような意見が挙げられて、パブリックコメントでは賛成意見は320個寄せられている。

反対意見

  • OTC となった際は、緊急避妊薬の使用後に避妊に成功したか、失敗したかを含めて月経の状況を使用者自身で判断する必要があるが、使用者自身で判断することが困難であること。
  • 本邦では、欧米と異なり、医薬品による避妊を含め性教育そのものが遅れている背景もあり、避妊薬では完全に妊娠を阻止させることはできないなどの避妊薬等に関する使用者自身のリテラシーが不十分であること。
  • 薬剤師が販売する場合、女性の生殖や避妊、緊急避妊に関する専門的知識を身につけてもらう必要があること。例えば、海外の事例を参考に、BPC(Behind the pharmacy Counter)などの仕組みを創設できないかといった点については今後の検討課題である。
  • 実際の処方現場では、緊急避妊薬を避妊具と同じように意識している女性が少なくない。OTC となった場合、インターネットでの販売も含め、安易に販売されることが懸念されるほか、悪用や濫用等の懸念があること。
  • 緊急避妊薬に関する国民の認知度は、医療用医薬品であっても現時点で高いとは言えないこと。
  • スイッチ OTC として承認された医薬品については、医薬品医療機器法第 4 条第 5 項第 4 号の厚生労働省令で定める期間の経過後、特段の問題がなければ、要指導医薬品から一般用医薬品へと移行される。現行制度では、劇薬や毒薬でない限り、要指導医薬品として留め置くことができないため、要指導医薬品として継続できる制度であることが必要であること。
  • 本剤は高額であることから、各店舗に適切に配備できない可能性が高く、薬局によって在庫の有無がばらつく懸念があること。

上記のような意見が挙げられて、パブリックコメントでは反対意見は28個寄せられている。

2021年現在の状況

スイッチOTC化は時期尚早として「否」として認められずとなっています。

厚生労働省のウェブサイトにて、掲載を希望した緊急避妊にかかる対面診療が可能な産婦人科医療機関等の一覧(令和2年4月6日時点)をウェブサイトに公表して、受診するよう促しています。

「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(平成30年3月)(令和元年7月一部改訂)において、オンライン診療で緊急避妊に係る診療を行うことについて、一定の要件に加え、産婦人科医又は厚生労働省が指定する研修を受講した医師が、初診からオンライン診療を行うことは許容されうることとしています。

また薬剤師に対しても通知があり、研修を受講した薬剤師が公表され、その薬剤師がオンラインでの受診後の窓口になるという旨の通知です。参考までに以下の内容になっています。

1.緊急避妊薬を調剤する薬剤師に対する研修の内容については、令和元年度厚生労働行政推進調査事業費補助金「かかりつけ薬剤師・薬局の多機関・多職種との連携に関する調査研究」(研究代表者 安原眞人(帝京大学薬学部 特任教授))(以下「調査研究」という。)において研修プログラムを作成中であるが、当該研修については、以下の内容を踏まえて実施すること。

また、実施に当たっては、調査研究において作成された資材を活用すること。

(1)オンライン診療に基づき緊急避妊薬を調剤する薬局での対応、調剤等について

(2)月経、月経異常、ホルモン調整機序その他女性の性に関する事項

(3)避妊に関する事項、緊急避妊薬に関する事項

2.研修は、公益社団法人日本薬剤師会及び各都道府県薬剤師会において、都道府県ごとに実施することとし、実施に当たっては、実施地域の医師会及び産婦人科医会と連携して対応すること。なお、実施される都道府県の薬剤師の希望者が参加できるように最大限配慮すること。

3.研修を受講した薬剤師及び従事先の薬局に関しては、オンライン診療に基づき緊急避妊薬の調剤が対応可能な薬剤師及び薬局の一覧として厚生労働省のホームページに公表予定であり、研修実施の際に受講した薬剤師等の情報作成をお願いすることとしたいが、具体的な公表方法等の手続に関しては別途通知すること。

私自身の考え

私の考えとしてはOTC化に賛成している立場です。

まず大前提として薬局は薬の相談窓口であるという点です。薬のお渡しから後日のフォローまで一貫して行えるのではないでしょうか。患者フォローなどは現在の薬局業務でも必須になっているので、そのノウハウを活かしてこの分野でも必須にすれば良いと思います。産婦人科の先生はとても忙しいので、医薬分業上でも少しでも負担を軽減することが務めだと考えています。

薬剤師の資質という面ですが、半ば人格否定的に感じることもあるのですが、医師から見るとまだまだそう見えているのでしょう。これは個々の薬剤師が変わらなければなりません。それは一度置いておいたとしても、大きく分けると以下の3点がケースとして考えられると思っています。

1.夫婦などの成人の男女が使用する場合

2.学生などの未成年者が使用する場合

3.事件等の場合

それぞれにおいても考えなくてはならないと思います。

1の場合において性教育的な指導はあまり必要がないと思います。20歳を超えたらすべての責任は自分にあるでしょう。全く避妊について知識がないのであれば別ですが、これだけの情報社会で避妊だけ全く知らないということは起こりえないのではないかと思います。そのために乱用防止に注意すれば良いのではないかというのが私の意見です。

2の場合に関しても個々の患者に対して薬剤師からの性教育は必要なのかは疑問に感じます。もし性教育が必要なのであれば学内でさらにカリキュラムを組みべきだと思います。その中で学校薬剤師なども交えながら避妊や性感染症についてを教育する必要があるでしょう。未成年者は親の同意が必要など家庭も交えた形での対策を取るべきだと思います。きっと飲み薬だから軽んじられるのでしょうから、その点に対しての重みは理解してもらわなければならないと考えています。

3の場合ですが、これは非常に重い問題だと思っています。私は男性なので当人ではないのですが、大学生のときに彼女が暴漢に襲われました。襲われたのが夜10時くらいだったでしょうか、当時流行っていたPHSで電話しながら帰っていた時に急に雑音と叫び声が聞こえてきたので、急遽タクシーに乗り込んで、1時間半くらい掛けて彼女の最寄りの駅に向かい、駅から彼女の家までの道を辿ってもらいました。見つからず彼女の家まで着くと、彼女は泥だらけのコートを着たままぼーっと座っていました。警察に行こうと話しても怖くて外に出られないというので、警察に事情を伝えてパトカーで来てもらうことにしました。1時くらいから事情聴取が始まったのですが、彼女を落ち着かせたり、簡易的な検査などを行ってもらって気が付くと朝4時でした。結果として彼女の体は外傷などはありましたが、何もなかったから大丈夫だと言われました。

ここで振り返ると72時間の制限が非常に重要なります。警察に行き検査を行った段階でもしかすると受診の指示があるのかもしれないのですが、今回も説得してようやく警察に行っています。比較的早めに警察に行くことができた今回でも警察から出るときまでに既に6時間以上が経過しています。精神的なケアを含めると通常の受診するまで72時間はハードルが高いと思っています。精神的な苦痛があるにもかかわらず、妊娠してしまっているかもしれないという恐怖が加わるので、その1つの精神的な苦痛だけでも早く取り除いてあげたいという思いがあるのです。薬局でもし購入ができるのであれば、すぐ近くの薬局で1つの不安だけは取り除けるでしょう。その後に落ち着いてから産婦人科にいくように促していくのが良いと思います。

上記の3つの点からもそれぞれ対応が異なりますが、いずれにせよ薬剤師が緊急避妊薬のファーストアクセスになることに賛成です。薬を承認しておいて、それを使用するか否かを患者や家族、パートナーに検討してもらうということも必要になると思います。多様化している現在において反対だけしていても遅れを取ってしまいます。しかしながら、こういった議論が広げられるというのはとても良いことだと思います。最終的に反対派の方が納得できるような法整備や薬剤の成長ができると良いですね。